【HJ HJ EYE:9】会社の新しい枠組み「ポジティブメンタルヘルス」

人材 コラム

東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野教授の川上憲人さん
東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野教授の川上憲人さん 全 3 枚 拡大写真
 HANJO HANJO編集部が中小企業のビジネスに関わるキーパーソンに、中小企業の現在を問う「HJ HJ EYE」。今回は、企業におけるメンタルヘルスの向上を目指す「健康いきいき職場づくりフォーラム」の代表で、東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野教授の川上憲人さんに、中小企業における職場環境のあるべき姿について話を伺った。

■従業員満足度や生産性の向上にはポジティブメンタルヘルスが不可欠

――2015年12月のストレスチェック制度施行もあって、昨年はワークライフバランスなど、従業員のメンタルヘルス対策が注目を集めました。川上さんは「健康いきいき職場」を考案し、この問題に当たっていらっしゃいますが、まずはその経緯や内容について教えてください。

川上 2000年代の半ば程まで、企業における職場のメンタルヘルス対策は、健康障害の予防といったネガティブな精神状態に主眼を置いたものでした。ですが、しだいにメンタルに不調をきたす従業員の数が増えてきて、一次予防(未然防止)やさらにそれを超えた対策が必要になってきました。状況を改善するための新たなメンタルヘルスのとらえ方として、従業員の活力やワークエンゲイジメントなど、ポジティブメンタルヘルスに注目する必要がありました。

 また、その頃に経団連や商工会議所、産業医などの関係者がメンタルヘルスについて議論するステークホルダー会議を開催しました。その中で議論にあがったのが、組織における一体感を取り戻すということです。当時、欧米型の個人評価が進む中で、職場内での助け合いが失われつつありました。この状況を改善することが、わが国のメンタルヘルスにおいては重要な要素だと考えました。

 「健康いきいき職場」では、ストレスから心身を守ることに加え、従業員のワークエンゲイジメントを高めること、職場の一体感を向上させることの3つに重点を置いています。これを新しい職場におけるメンタルヘルスの考え方として普及することで、経営戦略までを含めた展開を推進していきたいと考えております。

――従業員の健康管理を管轄する部門だけの話ではないのですね。職場のメンタルヘルスを改善するには、経営者を含めた取り組みが必要になりそうです。会社全体を巻き込むような大方針を打ち出すことも重要ではないでしょうか。

川上 これからのメンタルヘルスは「健康管理であり、経営戦略でもある」というとらえ方になると思います。従来のように担当部署のみの案件としてではなく、今後は人事部や経営者なども共同で、健康いきいき職場づくりを考えていく必要があります。

 「健康いきいき職場づくりフォーラム」に参加する企業の中でも、複数の部署が横断的に関わってポジティブメンタルヘルスを考える動きが出てきています。関東に拠点を持つある企業では、人事部を中心に健康いきいき職場づくりの方針を打ち出し、多様な人がプランに関わり、それを従業員へと発信しています。この事例で印象的だったのが、活動が進む中で、足が不自由な車いすを利用している従業員が活動の中心になっていってくれたことです。「障害を持った方もチームに貢献して働ける」という考え方を経営者に伝えられたということに感動しましたね。

 健康いきいき職場づくりを実行することは、会社として経営面でもメリットがあります。従業員が休まず毎日出社し、常に100%の仕事ができれば、あるいはより創造的に、自ら進んで働いてくれれば、会社の生産性は向上するでしょう。実際に成果をあげた事例も出ており、フォーラムでの活動に手ごたえを感じていますね。

■重要なのは、さまざまな施策を次々打ち出すこと

――会社の経営にとって有益だと分かれば、多くの経営者が関心を持つことになりそうですね。中小企業の中には、職場改善に着手するだけのゆとりが無い事業者も多いと聞いています。しかし、実際に利益が出る話となれば、導入が進むのではないでしょうか。

川上 私の経験上、職場づくりの改善が最も進みやすいのは、従業員200~300人の中小企業です。経営者の意思決定が迅速ですし、方針が社内に浸透するのに時間がかかりません。中小企業は人材が限られているので、経営的なメリットは大企業より大きいはずです。

 これも、フォーラムに参加している中小企業の話ですが、ある会社の社長は毎朝1回、すべての従業員の顔を見て回るのだそうです。そこで、調子が悪い従業員がいれば、「明日しっかり働けばいいから、今日は休め」と助言しています。従業員の創意工夫を高めるために、“1回だけは提案されたアイディアを実施する”という方針も打ち出しているようです。「会社のために何か考えよう」と、ポテンシャルを引き出せる風土を作るために、経営層が動きだそうとしているのを感じますね。

――川上さんの著書『健康いきいき職場づくり』(生産性出版)では、サイボウズ株式会社の変革が印象に残りました。

川上 サイボウズはとても良い事例です。「人事部感動課」を設立して、従業員向けにいろいろなメンタルヘルス改善の提案をしています。同社の取り組みが優れているのは、その人事施策の多様さにあると言えるでしょう。従業員の意見を聞くことで、飽きられたもの、しらけたものは止めてて、どんどん新しい施策を行っています。こうした従業員の巻き込み方は参考になります。

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《HANJO HANJO編集部》

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