地酒や麦とろご飯も…岐阜・明知鉄道の「食堂列車」に乗ってみた

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明知鉄道の急行『大正ロマン1号』に連結された食堂車「枡酒列車」の車内。沿線の地酒を楽しむ人たちで盛り上がっていた。
明知鉄道の急行『大正ロマン1号』に連結された食堂車「枡酒列車」の車内。沿線の地酒を楽しむ人たちで盛り上がっていた。 全 12 枚 拡大写真
鉄道は学校や会社、あるいは観光地への移動という「目的」を実現するための「手段」だが、近年は鉄道の利用自体を「目的」にした観光列車が各地で増えている。その形態はさまざまだが、とくに多いのが、車内で沿線の食や酒を楽しめる「食堂列車」だ。

岐阜県の山間部に位置する恵那・中津川両市のローカル線・明知鉄道でも、急行『大正ロマン号』に食堂車を増結する形で食堂列車を運行している。青空が広がった2月の週末、『大正ロマン号』の食堂車「枡酒列車」「じねんじょ列車」を取材した。

■ローカル線だけど「超豪華」4両編成

恵那駅で明知鉄道の普通列車に乗り込み、まずは花白温泉駅に向かった。この駅は1面1線の短い単式ホームがあるだけの無人駅だが、駅前には「花白温泉」という名の温泉施設があり、「枡酒列車」で提供する料理の準備が行われている。調理室に入ると、既に料理の盛り付けが始まっていた。

食堂車といえば、車内に設けた調理室で料理を作り、テーブル付きの食事スペースに運んでお客に提供するというイメージだが、明知鉄道は専用の食堂車を保有していない。沿線の施設で調理してから列車に積み込む。

調理室を出て、ひなたぼっこすること1時間。明智駅からやってきた恵那行きの上り『大正ロマン2号』が姿を現す。大きな箱に収められた料理が積み込まれると、『大正ロマン2号』はすぐに発車した。

列車は4両編成で、恵那方先頭の1両目(アケチ10形気動車アケチ12)が、食堂車を利用しない一般客向けの車両。残る後方3両が食堂車で、2両目(アケチ6形気動車アケチ6)が「枡酒列車」、3両目(アケチ10形アケチ13)と4両目(アケチ10形アケチ14)が「じねんじょ列車」になる。東海道・山陽新幹線に食堂車が連結されていた頃でも、16両編成中に食堂車とビュッフェ車がそれぞれ1両だけだったが、明知鉄道は4両中3両が食堂車という「超豪華編成」だ。

一般客がポツポツと乗っている1両目は、ボックスシートとロングシートを組み合わせたセミクロスシート車。これに対し、2~4両目の食堂車は全てロングシートだ。大都市を走る通勤電車のようだが、座席の前に細長いテーブルを並べて食事ができるようにしている。この方式だと、食堂列車を運行しない時間帯はテーブルを撤去し、一般の列車として運用することができる。

実際に食堂車として営業するのは恵那12時40分発の明智行き下り『大正ロマン1号』で、上り『大正ロマン2号』は明智駅にある車両基地から恵那駅まで、食堂車3両を回送する役割も担っている。車内ではテーブルへの配膳がてきぱきと進められていた。

■「女城主」を飲める食堂車

『大正ロマン2号』は12時29分、終点の恵那駅に到着。ここで列車は『大正ロマン1号』に変わり、食堂車の営業列車として明智駅に折り返す。食堂車目当ての観光客が狭いホームでひしめいており、車両をバックに記念撮影を行う姿も見られた。

12時40分、いよいよ『大正ロマン1号』が恵那駅を出発。窓の外には、白雪をまとった御嶽山らしき山影も見える。しばらくすると、「乾杯~!」の音頭が「枡酒列車」の車内で響いた。

明知鉄道では原則として月曜日を除く毎日、『大正ロマン1号』で食堂車を営業している。提供する料理の「メインテーマ」は季節によって食堂車ごとに変えており、2月25日は「枡酒列車」と「じねんじょ列車」が連結されていた。

「枡酒列車」は、新酒を含む4種類の地酒を沿線の老舗造酒屋・岩村醸造が提供。明知鉄道オリジナルの木ますで楽しむという趣旨で、1月25日から3月25日までの毎週土曜日のみ連結する、期間限定の食堂車だ。車内を見渡してみると、男性の比率がかなり高い。明知鉄道の広報を担当する伊藤温子主任によると、「枡酒列車」はリピーターも多いという。

愛知県からやってきたという20代の男女2人は「以前、沿線のイベントでここを訪ねたときに『枡酒列車』の企画を知り、乗ってみたいと思った。やっと乗ることができてうれしい」と話す。お酒の味を聞くと「すごくおいしい。のどごしがいい。山あいの景色もきれい」と言い、ご満悦の様子だ。

車内で提供されていた酒の銘柄は「ゑなのほまれ」と「女城主」。「女城主」と言えば、今年1月からNHKで放映されている大河ドラマ「おんな城主 直虎」(主な舞台は現在の静岡県内)を思い浮かべるが、明知鉄道の沿線にある岩村城も、戦国時代から安土桃山時代にかけ、織田信長の叔母・おつやの方が城主だった。岩村醸造も、おつやの方にちなんだ「女城主」を以前から売り出していた。

お酒があまり飲めない記者も口にしてみたが、喉をするりと通り抜けていく感じに快感を覚え、いつしか二口、三口と、木ますを何度も口に運んでしまった。

■女性客が多い「じねんじょ列車」

「枡酒列車」から通路を通って「じねんじょ列車」に移動。こちらは「自然薯(じねんじょ)」と呼ばれるヤマノイモを主題にした料理を提供している食堂車で、「枡酒列車」とは打って変わって女性客が大半だ。通常は料理のメインテーマ一つにつき食堂車1両となるが、この日の「じねんじょ列車」は1両増やして2両という盛況だ。

じねんじょといえば、何と言っても麦とろご飯。「じねんじょ列車」は沿線の3店舗が交代制で料理を提供しており、麦とろご飯も用意されている。とろろを麦飯と一緒に口の中へ運ぶと、粘り気は弱すぎもせず、強すぎもしない。口から喉へとスルスル入っていく感触がたまらなかった。

『大正ロマン1号』は盆地の中を走り続け、13時半を少し過ぎたところで終点の明智駅に到着。「枡酒列車」のドアからは、顔が少し赤くなった乗客が続々と降りていった。

■食堂列車は今年で30周年

明知鉄道は、恵那~明智間25.1kmを結ぶ第三セクター鉄道。起点の恵那方と終点の明智方は恵那市内だが、途中の一部区間は中津川市内を通る。恵那駅でJR東海の中央本線に連絡。終点の明智駅がある明智地区は、大正時代の建築物が多数残ることで知られる。

1933年から1934年にかけ、国鉄が運営する明知線として開業。戦後は国鉄の経営悪化に伴い廃線の危機に直面し、1985年11月に沿線自治体が出資する明知鉄道が同線の経営を引き継いだ。食堂列車は1987年から運行を開始し、今年で30周年を迎える。2011年3月以降は急行『大正ロマン号』に増結する食堂車として、一般に販売されている時刻表などでも案内されるようになった。

1日の平均通過人員(旅客輸送密度)は、国鉄時代の1977~1979年度が1623人だったのに対し、経営移管後の2013年度は616人。少子化の影響で全体の輸送人員は大幅に減ったが、食堂列車の利用は増え続けており、年間では約1万7000人に及ぶという。導入当初は一般列車用のセミクロスシート車だったアケチ13も、後に食堂車にも対応できるロングシート車に改装しており、食堂列車の輸送力が強化されている。

食堂列車の利用は事前の予約が必要で、申込みは明知鉄道のウェブサイトなどで受け付けている。3月中は「枡酒列車」がほぼ満席に近い状態だが、「じねんじょ列車」は余裕がある(3月2日時点)。4月からは、生産量日本一を誇る恵那市山岡地区の細寒天を食べられる「寒天列車」などが運行される予定だ。

《草町義和》

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