富裕層インバウンドの法則その8

インバウンド・地域活性 コラム

増渕達也(ルート・アンド・パートナーズ 代表取締役)
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★法則8:逸話を詳しく教えるという大切な姿勢

 ハイネットワース(富裕層)が購入するものにはほとんどの場合ストーリーがある。逸話といってもよいかもしれない。ブルガリの歴史、ショーメの歴史、メルセデスの歴史、ジャガーの歴史、などなど、それぞれ逸話がある。購入するという行為は、その逸話に自分が主人公(あるいは脇役?)として参加する行為だと言い換えることができる。

 旅行で言えば、モナコの歴史、ニューカレドニアの歴史、ロンドンの歴史、などなどデスティネーションのそれぞれに逸話がだいたいあるもので、これはジャパンインバウンドにおいても当てはまる。東京の歴史、白川郷の歴史、桑名の歴史、など各地域に歴史があり逸話が存在しているはずだ。

 一方で、「こんなに深い歴史があるのになぜ外国人はこの街に興味を持たないのだろう」という意見も多く耳にする。結論から言うとそれは「翻訳がなされていないから」、ということに起因する。翻訳といっても、日本語を英語に、あるいは中国語に、という翻訳ではなくて、「相手の頭に残るような形にしてあげること」とも言えるので一朝一夕には残念ながら成り立ちえない。

 コミュニケーションという言葉の語源を探っていくと理解が進むかもしれないが、そこには「相手がいる」という意味合いが存在する。情報を整理して伝えようとするだけでは結局のところコミュニケーションにならない≒伝わらない、ということになってしまう理由はこのような一方通行的思考回路そのものの中にある。逸話そのものは単なるインフォメーションにすぎないので、これをインテリジェンスに高める必要があるというふうに言い換えることもできる。つまり「単なる情報」を「相手の頭に残る知恵」に昇華させなければならない。

 富裕層インバウンドビジネスの場合は相手が日本人ではないという大前提があり、まったくの情報ゼロからの出発となるケースが圧倒的に多いと思うのでなおさらこのような丁寧さが必要となってくるわけだ。と言っても、難しく考える必要などどこにもなく、足し算思考で十分で、例えば「こうこうこうだから、こうなんですよ」というインテリジェンス(この場合説明文と言ってもよい)を丁寧に単なるインフォメーション(「これはこういうものなんです」的な一方的情報伝達の類)に付け加えるだけで相手の理解が進む、要するにただこれだけのことなのである。

 この連載をお読みの読者の方々も小学生時代の先生を思い出してみるといいかもしれない。記憶に残る先生が少なからずいるはずだ。なぜ記憶に残っているのか? いろいろな理由があるかもしれないが、その先生が教えてくれたことが意外と理解できたから、が答えのひとつのはず。そんなことを考えながら、コミュニケーションのあり方をもう一度考えてみると、次のように注意することが肝要なのだと思う。

 悪い例:情報を整理する→伝える
 良い例:情報を整理する→相手のインテリジェンスにヒットするように教える→伝わる

 このように、情報を整理する→相手のインテリジェンスにヒットさせるように教える→伝わる、の回路でないと外国人にはなかなか本質的な伝わり方をしないというのが富裕層インバウンドビジネスに参入して感じている結論だ。ポイントは「伝えるようにする」ではなく「伝わるようにする」と考えること。

 この回路に即して言えば、イギリス人にはイギリス人への、トルコ人にはトルコ人への、まったく違ったコミュニケーションが必要になってくるはずだ。当たり前だろう、相手にも歴史と逸話があるのだから。単純なことを言っているようでかなり深い話だと思うのは、「伝わる」ためには「相手のことを知る」ハードルを越えなければならないという前提があるということだから。


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《増渕達也》

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