朝ドラ『ひよっこ』 美しい「労働観」に人々は理想の職場を重ねた

人材 コラム

NHK『連続テレビ小説「ひよっこ」』[総合](月~土)午前8時~8時15分ほか
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 今週、最終回を迎えるNHK『連続テレビ小説「ひよっこ」』。数々の話題を振りまき、今年を代表するヒット作となったドラマだが、見ていて興味深かったのは劇中での「仕事の描かれ方」だ。舞台こそ1960年代だが、本作の労働観は極めて現代的で、さりげないシーンに、とても大事なことが描かれていると毎回感心させられた。

 物語の主人公は奥茨城村で暮らす谷田部みね子(有村架純)。高校卒業は稼業を手伝う予定だったが、父親の実(沢村一樹)が東京で失踪したために、父親を探しながら、実家に仕送りするために上京して働くことになる。

 みね子の勤め先となったのはトランジスタラジオの製造工場を経営する向島電機。工場にはみね子と同じように集団就職で全国から上京してきた女の子たちが働きに集まっていた。

 みね子は乙女寮と呼ばれる宿舎で共同生活を送りながら働くようになるのだが、流れ作業でラジオの部品を組み立てていく仕事に中々慣れることができない。みね子は特別な才能も突出し行動力もない普通の女の子だ。仕事を覚えるのも苦手で、工場での仕事も、焦って失敗を繰り返してしまう。

 そんな不器用なみね子が、心理的に追い詰められていく姿と並行して、みね子を優しく見守る寮長の永井愛子(和久井映見)や、みね子のことでケンカを始める幼馴染の助川時子(佐久間由衣)たち乙女寮の面々の姿を描くことで、若い女の子にとって働くということはどういうことかを多角的に描き出していた。見どころ満載の『ひよっこ』だが「働くこと」の苦労と喜びを群像劇として描いていた乙女寮編が個人的には一番楽しかった。

 その後、オリンピック景気の反動で需要が落ち込み、企業が過剰な在庫を抱えたことで起きた不況のあおりを受けて、向島電機は倒産してしまう。失業したみね子は、洋食屋の「すずふり亭」で、ホール係として働くことになる。

 再び、一から仕事に取り組むことになるみね子。仕事を始めてからお皿を一度も割ったことがなかったことが自慢だったが、ある日ついにお皿を割ってしまう。

 落ち込んでいるみね子に料理長の牧野省吾(佐々木蔵之介)は、職場で忙しい時に、乱暴なしゃべり方をしたのを怖がっているのではないかと心配する。それはすぐに勘違いだとわかるのだが、牧野は、自分が修行時代に体験した、上の人間が下に対して行っていた乱暴な振る舞いと、軍隊での過酷な体験について語り、ミスをした人間を怒鳴るのは「嫌いなんだよ」だと、自分の信念を語る。(第65話)。

 このシーンを見ていて思い出したのは牧野を演じる佐々木蔵之介がシェフの役で出演していた岡田惠和・脚本の『バンビ~ノ!』(日本テレビ系)だ。

 本作は料理人志望の若者・伴省吾(松本潤)がイタリアン・レストランで修行することで成長していく姿を描いた料理人の成長物語だったのだが、描写が過酷だったのを覚えている。伴は厨房やホールを転々としながらレストランで働くことの意味を学んでいくのだが、その過程で乱暴に怒鳴られたり、厳しく当たられる場面もあった。もちろん、そういった叱咤激励自体にはちゃんと理由があったので「怒鳴られるのも仕方ないことだ」と納得して見ていたのだが、今の基準で考えれば、パワーハラスメントのはびこるブラックな労働現場だと思われても仕方がないかもしれない。

『バンビ~ノ!』よりも過去を舞台にした『ひよっこ』のすずふり亭は、とてもホワイトな職場なので、時代背景を考えると違和感はあるのだが、おそらく作り手は、現代にも通じる理想の職場として「すずふり亭」を描きたかったのだろう。

 向島電機でも、作業のミスを繰り返してきた青天目澄子(松本穂香)に対して工場主任の松下明(奥田洋平)が「働く気ないならクビにするぞ。田舎帰れ!」と怒鳴ると女性職員全員が凄い目で見る場面があった(第38話)。

 工場長自体が今まで温和な人物として描写されていたため、コミカルな見せ方だったが、テレビドラマでよくある、上司が部下を怒鳴る場面に対して「こういう対応はいけない」とNOを突きつけたシーンとして、画期的だった。

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《成馬零一/ドラマ評論家》

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