朝ドラ「わろてんか」に“働き方改革”の原点を見出す

制度・ビジネスチャンス コラム

NHK『連続テレビ小説「わろてんか」』[総合](月~土)午前8時~8時15分ほか
NHK『連続テレビ小説「わろてんか」』[総合](月~土)午前8時~8時15分ほか 全 1 枚 拡大写真
 連続テレビ小説『わろてんか』(NHK)は、いつも周りを朗らかにしながら自分もよく笑う、いわゆる笑い上戸の女の子がやがて結婚し、寄席を切り盛りしていく姿を描いた物語だ。京都の老舗薬種問屋の長女に生まれたヒロイン・てんを演じるのは若手女優の葵わかな。

 笑うことが好きな少女・てんは幼い頃に若手芸人・北村藤吉(松阪桃李)と出会い、大人になると結婚、紆余曲折の後、かつての芸人仲間の協力のもとで寄席小屋「北村笑店」を立ち上げることになる。

 物語は明治末の京都から始まり大阪へと舞台を移し、大正、昭和と時代が進んでいくのだが、見ていて面白いのは、ユニークで癖の強い登場人物たちだ。

 主人公のてんと夫の藤吉を中心に彼らを取り囲むのは、活動写真に情熱を注いでいる青年実業家・伊能栞(高橋一生)、元・旅芸人で活動写真の女優へと転身する秦野リリコ(広瀬アリス)、てんの幼なじみで、後に「北村笑店」の総支配人として、てんたちを支えることになる武井風太(濱田岳)。

 他にも舶来屋キース(大野拓朗)、万丈目吉蔵(藤井隆)、潮アサリ(前野朋哉)といった、最初はダメダメだった芸人たちが、次第に成長していき独自の芸を身に着けていく姿も面白い。

 連続テレビ小説というとヒロインの成長物語が中心になりがちだが、本作はサブキャラも魅力的で、次はあのキャラクターがどうなっていくのか? と目が離せない。

 同時に面白いのは、てんと藤吉の歩みが、そのまま戦前の芸能の歴史となっていることだ。

 てんが嫁いだ北村家の米問屋が借金で破産して以降、てんたちは芸人仲間たちが暮らす貧乏長屋に引っ越して、藤吉の夢である寄席小屋を開こうとする。

 そのために大阪の小屋を当たるのだが、中々いい条件の小屋を見つけることができない。なんとか寄席を買い取り「北村笑店」を開いても、客も集まらず中々経営が軌道に乗らない。

 二人の前には次から次へと難問が押し寄せる。

 本作で描かれる寄席の経営にまつわるトラブルの話はお笑いに興味がない人でも仕事をしている人ならば面白いのではないかと思う。

 藤吉の母・北村啄子(鈴木京香)が商売の基本として言う北村家の家訓、無駄な出費をせずに使うべき時にお金を使う「始末」、どこに商売の商機があるかを見極め誰もやっていないことをやるという「才覚」、金勘定ではなく損して得取れという「算用」の三文字が挙げられる。これにてんの姿を見て啄子が追加した“人は財なり”という「人財」の四本柱が「北村笑店」の家訓となるのだが、これはどんな仕事にも通じる考え方だろう。

 その後、てんたちは、芸人を寄席に派遣する「太夫元(たゆうもと)」の寺ギン(兵動大樹)率いるオチャラケ派と喜楽亭文鳥(笹野高史)が率いる伝統派の派閥抗争の間でいかに自分の寄席に芸人に出てもらうかという苦労や、「落語会の風雲児」と呼ばれる天才芸人・月の井団吾(波岡一喜)に自分の寄席に出てもらおうと藤吉が四苦八苦する中、所属芸人がストライキを起こすといった物語が展開される。

 ある時、寺ギンから派遣されている芸人がケガをして高座に上がれなくなり収入が途切れてしまい、みかねたてんがこっそりとお金を渡す。しかしその行動を、自分のところの芸人を引き抜こうとしていると勘ぐった寺ギンとの対立が激化し、風鳥亭に派遣されていた芸人たちは全員引き上げられてしまう。

 ここで印象的だったのは、藤吉とてんが、万丈目たち古参の芸人を月給制で雇うことに決める場面だ。芸人といえば番組の出演に左右される歩合制の給金で、借金を抱えながらその日暮らしの者も多かった背景を考えると、生活の見通しの立つ月給制を取り入れると言うのは画期的なことだ。

 この辺りは、非正規雇用のブラック労働の問題として現代でも通じるシビアな話ではないかと思う。最終的に寺ギンに反旗を翻した芸人たちの借金を北村商店が肩代わりすることで全員北村笑店に集団で移籍するという逆転劇を見せるのだが、華やかな芸能の物語の節々に、働き方をめぐる諸問題を取り込んでいるのが、見ていて面白い。

 昔から、芸人を主人公にした物語は多数あるものの、事業や雇用という観点から、ここまで踏み込んだドラマは、これまでなかったのではないかと思う。


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《成馬零一/ドラマ評論家》

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